● おかえし        (友人)K・Oさん

 

 

 1月の特に寒い日、一人の男を連れて、神戸駅から新快速に乗り高槻まで行き、

そこから一つ大阪側に戻る。

 

摂津富田。 駅前のロータリーで新阿武山病院行きのバス。 約20分で病院着。

この病院はアルコール専門病院だ。同行の男はアル中。アルコール依存症だ。  

 

知り合いの院長、ソーシャルワーカーに無理を言っての入院…。

 

朝9時に家を出て、帰りの新快速に乗って時計を見たら午後3時を回っていた。

 

親戚でもない、ただの友人…。

 

 「…なんで、オレがこんなことせなアカンねん…。」

 

電車の窓の外の冬の空を見るともなしに見ながらそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 「…おじさん…、お世話になりました…。」

 

出そうになる涙を必死になって抑えて、横浜で二年間お世話になった、下宿させて

いただいた友達のお父さんに、高校を卒業し、大阪の実家に戻る日に挨拶をした。

 

 「…君がいなくなると、寂しくなるよ…。」

 

おじさんの言葉に又涙が出そうになる。

 

 「…この、御恩は忘れません。必ずお返しします…。」

 

 「ホウッ、御恩を返してくれるのか、嬉しいね。 いつだい? どんなふうに?」

 

 「…い、いつか、きっと…。」

 

 「いま、やっと高校を出たばかりだ。君が恩を返してくれるのには、まだまだだ。 お金で返してくれるの? それとも、違うことかな?」

 

 「…。」

 

 「そのころ、おじさんが、死んでたらどうするの?返す相手はいないじゃないか。」

 

 「…。」

 

 「でも、返してもらうよ。 君が、御恩は返すって言ったんだからね。」

 

 「…。」

  「いいかい、君はおじさんには、返せないんだよ。また、おじさんもおばさんも、返してもらおうなんて思ってもいないんだよ。 …いつか、キミが大人になって、誰か困ったり、悩んだりしている人がいたら、その人に君の力をかしてあげなさい。それが、おじさんやおばさんに恩を返したことになるんだよ。」

 

 

 

 「…。」

 

私は頭を下げたまま立っていた。 こらえていた涙がドッと出た…。

 

 

 

 

 

 「マ、ええか…。」

 

酒を切って、元気になって社会に戻ってくる友を期待しよう…。

 

…もうすぐ神戸だ。駅に着いたら熱いコーヒーを飲もう。

 

 

 

何処へ…   koichi.wada
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